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展示会場で命を売るということ- 移動販売を考え直そう

活動レポート

展示会場で命を売るということ──移動販売を考え直そう

2025.08.07

目次

命を売るために全国を回る移動販売──展示会場で起きていること

週末、地方の産業展示館や文化センターで、ペットカーニバルや特設ペットイベントなどと称して犬や猫が販売されている光景に出会うことがあります。可愛い仔犬や仔猫が並び、「かわいい!」と無邪気な子どもがケージに手を伸ばし、親がその場で契約書にサインをする。

でも、その仔犬や子猫たちはどこから来て、今どんな状況に置かれているのか。 ほんの少し、立ち止まって考えてみてほしいのです。

こうしたイベントは「移動販売」や「移動展示販売」と呼ばれ、移動式のペットショップが、週末ごとに全国の展示会場を巡回して動物を販売しています。

巨大なトラックに何層にも重ねて積まれたケージに入れられ、幼齢の犬や猫が、時には10時間以上をかけ数百キロを超える長距離を毎週移動させられます。展示会場には水曜か木曜に到着し、販売の前段階として「2日間の健康観察を行っている」とされます。週末の販売が終わったらまたトラックに積まれ、次の都市へ揺られていきます。

移動販売で購入した犬が感染症にかかっていてすぐ亡くなってしまうという事例がいろいろなところで報道1されており、動物福祉にくわえ消費者保護の観点からも問題視されてきました2345。2025年5月には、中日新聞において浜松市の公共展示施設で開かれた移動販売で購入した犬が、3日後から食欲不振、下痢などの症状を生じ、パルボウイルスの感染で1週間後に亡くなってしまったという痛ましい事例が報道されています6

しかしその2か月後、同じ会場で再びイベントが開かれていました。会場には「かわいい〜」という声があふれ、多くの家族連れやカップルが笑顔でケージをのぞき込み、スタッフが仔犬や仔猫を抱かせています。その一方で、ケージの中には嘔吐物の上で頭を下げて眠る犬、ペットシーツのない床に尿がたまり、お尻に排泄物がついたままの犬もいました。

「輸送後2日間の健康観察」が義務づけられ、販売に必要な事業所登録のため保健所の現場確認が行われているはずの制度の中で、犬猫たちは清潔とは言えない、基準のケージより狭い環境で展示、販売されています。

主催者側は新聞広告や地元チラシ、その地方のテレビCMのみのローカル告知にとどめ、SNS等での告知を避けたり、会場内の写真撮影を禁じたりする場合があります。今回のイベントも、開催された公共施設のスケジュールにさえ掲載されていませんでした。これは「見られたくない」「後から連絡してほしくない」運営が行われているように感じます。

人間に置き換えてみてください。生後間もない赤ちゃんが、週に何度も長時間車に揺られて違う土地に連れ回され、車の中で過ごし、不特定多数の人の前に晒され、触られ、販売される。 それが、「命のある存在」に対する扱いだと言えるでしょうか?

画像はイメージです

健康面の懸念──移動、展示、そして感染症リスク

犬や猫、とくに仔犬や子猫は、環境の変化やストレス、温度の変化にとても敏感です。実際、移動販売では以下のような健康リスクがあります。

  • 長距離移動によるストレスと疲労
  • 車内での夜間飼養による過酷な睡眠環境
  • 空調が効きづらい展示会場内での熱中症や低体温のリスク
  • 多数の仔犬・子猫が密集することでの感染症リスク(パルボ、ジラルディア、ケネルコフなど)

また、EUにおける研究においては、輸送時の不適切な管理が犬猫の身体的・精神的健康に悪影響を及ぼし、輸送ストレスにより潜在的な感染症が再活性化することや、犬においては、吠え続けたり、過剰な興奮、恐怖、嘔吐などの問題行動につながることがあることが分かっています7

登録制度の限界?ーそれでも移動販売を防いでいる自治体はある

移動販売を防ぐため、2020年に環境省は、輸送後2日間は健康観察を行うこと義務づけ、経過観察を完了してからでなければ販売できないと規定しました。また、販売を行う動物取扱業者は、販売場所の自治体に「飼養施設」を登録することが必要です。この施設は以下のような基準を満たすことが求められ8、自治体は現地調査も行っています。

  • 動物ごとに適したケージスペース(タテ、ヨコ、高さについて、体高の2倍や3倍以上などの基準あり)運動スペース分離型ケージの場合は1日3時間以上の運動スペースでの自由時間
  • 不浸透性の床材(清掃しやすい)
  • 排水設備と換気設備、温湿度管理のための空調機器、清掃・消毒設備
  • 帳簿の設置

ところが、これらは一時的に整えることが可能な内容でもあります。また、動物愛護管理法や省令には、飼養施設について「その施設が恒常的に使われるものでなければならない」「夜間飼養が可能であること」といった要件が明文化されていません。

移動販売の場合、各地での不定期開催ゆえに行政が事前に把握・監督しづらく、営業を始める前に形だけ施設を整え、後日行政が確認・指導していくという事後指導中心となってしまうという制度的限界があります。 このため、形式的な基準が整っていれば、展示会場であっても設備が揃っていれば“形式的に”登録されてしまい、運用の中で問題が発覚しても“販売イベントは終わっている”という構造的なタイムラグが発生します。

それでも、自治体によっては、独自の条例を制定したり、登録に必要な手続を変更して、移動販売イベントの実施を実質的に難しくしたところはあります。法制度にも問題はありますが、それでも、やめさせようと行動を起こしている自治体もあるのです。

会場を「貸す側」の責任──公益性に照らして

移動販売イベントが開催される展示会場には、公共施設や公益財団法人、公益社団法人が運営、管理する会場も多くあります。

公共施設は、設置条例などで「市民福祉の向上」「地域文化の振興」といった公益目的が定められていることがほとんどです。公益法人もまた、「社会の利益に資すること」を使命とする団体です。

にもかかわらず、動物福祉にも、消費者保護にも明らかに疑義のあるイベントを施設に迎えることは、公益性との整合性が問われます。公共施設であっても「誰にでも貸さなければならない」という義務はなく、 公序良俗に反する場合、 利用目的が公益と相容れないと判断される場合 には、利用を断る正当な理由があります。

小さな命にリスクのある販売イベントを「断らないこと」が、本当に社会的責任を果たしていると言えるのでしょうか?

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そして、私たち個人にできること

問題は業者だけではありません。

「可愛い」「かわいそう」「この子を助けたい」 そんな思いで購入した人のやさしさが、 その次の週末にもまた別の場所で、別の命が売られる仕組みを支えてしまうことがあります。

もちろん、それは誰かを責めるための話ではありません。
でも、私たち一人ひとりの行動が、社会の流れを変える力を持っていることも、また事実です。

では、私たちには何ができるのでしょうか。

まずは、「知ること」。移動販売の裏側にどんな課題があるのか、「かわいい」の陰でどんなことが起きているのかを知ることが、すべての出発点です。この記事を読んでくださった今が、その第一歩です。

動物を迎えたいと思ったとき、ペットショップや移動販売イベントだけが選択肢ではありません。
保護団体や譲渡会を通じて、家族を待っている命に出会う方法があります。
そうした選択を広めていくことも、ひとつの優しさです。

そして、「こんな問題があるって知ってた?」と、さりげなく話題にしてみるだけでも、意識は広がっていきます。
やさしく、静かに、でも確かに──その輪が社会を動かします。

海外事例に学ぶ -動物福祉が進んでいる国の対応

動物福祉が進んでいる欧米では、動物の輸送にも法規制があり、最近は、ペットショップなど固定の小売店での生体販売も制限する方向で進んでいます。これは、「かわいそうな子を助けるつもりで購入することが、繁殖・流通の悪循環を支えてしまう」という課題に正面から向き合い、販売経路自体を制限する構造的アプローチです。

  • EU:動物を65キロ以上輸送する場合、事前に輸送業者としての免許や輸送に携わる者が動物の輸送に関する知識を有することを証明する必要があります910。8時間以上の長距離移動については、車両は事前に行政の検査を受ける必要があり、輸送記録の保持も必要とされます。主に畜産動物に関する規制ですが、現在、EU委員会で可決され議会に提案されている改正案11では商業目的の犬や猫の輸送にも適用があることが明確化されています。EUではさらに、2025年6月、ペットショップでの犬猫販売や常設施設でない場所や一時販売(展示即売)を禁止する方向の法案12がEU議会で可決されました。このあとEU理事会や加盟国での手続を待つことになります。
  • イギリス:2020年に、生後6ヶ月未満の犬猫を、ブリーダーや保護施設を介さず第三者が販売することを禁止しました(Lucy’s Law13)。これにより移動販売はもとより、ペットショップでの販売は不可になりました。
  • アメリカ:カリフォルニア州14やNY州15などいくつかの州と300以上の都市において小売店での生体販売を禁止しています。また、ボストン16やルイビル17では、公共スペースでの犬猫の販売が禁止されています。

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わたしたちの願い – 感受性のある命とともあるために

動物は命ある存在です。でも、ただ生きているだけの存在ではありません。

驚けば震え、怖ければ逃げ、優しくされれば安心し、愛情を受ければ応えようとする。彼らは、私たちと同じように「感じる」力を持った、感受性のある命です。

暑さ、寒さ、騒音、孤独、恐怖……それらを「わかってしまう存在」だからこそ、環境や扱いに対して、より大きな影響を受けてしまうのです。

私たちが「命ある存在」として動物を扱うとは、こうした感受性にきちんと配慮するということではないでしょうか?

「売られている」その姿が、命への尊重に基づいているのか。 週末の展示会場でケージに入れられ、長距離移動を繰り返し、夜はトラックに詰め込まれる。 その営みを、私たちは「ふつう」として受け入れていいのでしょうか?

私たちは、 

  • 動物販売のために、一時的な展示会場が飼養施設として登録できる制度を見直すこと
  • 自治体が形式だけでなく実態で判断できる制度を作ること
  • 会場を貸す側が「貸さない」という判断をしなければいけない空気をつくること 
  • 動物を迎えるなら、譲渡や信頼できる方法を選ぶ人が増えること

そうした社会の変化が、移動販売が存在しない未来につながると信じています。

展示会場で、感受性を持った小さな命が売られている。 その事実に、目を向ける人がひとりでも増えることを願っています。

参照資料:

1.福井新聞2024年10月12日「移動販売で購入したパピヨン、当日に感染症判明…翌日には重い肺炎も 犬猫に強いられる過酷な環境【杉本彩のEva通信】」

2.岩手県HP 消費生活Q&A平成31年2月20日 移動販売で購入したペットが病気にかかっていた 

3.静岡新聞2023年9月30日 「犬猫の移動販売 規制強化を要望 議連、浜松市長に」 

4.公正な動物愛護法改正を求める3団体 移動展示・移動販売の禁止

5.動物プロダクション SCIENCE FACTORY ltd.「移動販売はなぜ問題?動物イベント出店の実態と2025年法改正の背景」
6.中日新聞2025年5月25日「ペット移動販売に問題あり トラック荷台に犬猫100匹」
7.EU Study on the welfare of dogs and cats involved in commercial practices

8. 環境省 「動物取扱業における 犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針 ~守るべき基準のポイント~

9.EU EU rules on the protection of animals during transport

10. EU Council Regulation (EC) No 1/2005 of 22 December 2004 on the protection of animals during transport and related operations

11.  EU Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the protection of animals during transport and related operations

12. EU REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the welfare of dogs and cats and their traceability

13. Lucy’s Law Animal Welfare (Licensing of Activities Involving Animals) (England) (Amendment) Regulations 2019

14. California Code, Health and Safety Code – HSC § 122354.5

15. Office of the New York State Attorney General Attorney General James Reminds New Yorkers that Selling Pets in Retail Stores Will be Illegal

16. City of Boston  16-1.9G.2(D)   Sale of Dogs, Cats, Guinea Pigs or Rabbits by Pet Shops Prohibited.

17.  Louisville Public Media Louisville Metro Council passes ban on retail dog and cat sales

使用画像:Photo by Hemes Rivera, Keighla Exum, Shuan Meintjes, Andrew S on Unsplash

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