ゴールを見る

動物行動学を理解し、真のパートナーシップを

活動レポート

「犬が人に伝える無償の愛とは」行動学で解明することが平和につながる

2024.06.25

目次

犬は人と1万年以上共存している歴史を持っています。古代エジプトの壁画でも犬や猫が神として描かれていることから大切な存在であったことは間違いありません。狩猟、使役、共に暮らすパートナーとしてなど、さまざまな目的や場面で人間の隣に寄り添ってくれています。

飼い主である人間が、大切な存在である犬や猫の行動を科学的に学ぶことができれば、さらに良い関係性を作れるかもしれない。AWGsはそう考えています。今回は動物行動学を研究されている東京農業大学 農学部動物科学科 増田宏司教授(動物行動学研究室)に、動物行動学とは、そしてそれらを知ることのメリットをお伺いしました。

動物行動学とはどんなものか教えてください

私たちが日々接している犬や猫、その他の動物は人間にはない様々な行動を取ります。動物行動学とは、注目した動物の行動が、どんなメカニズムで、いつから始まって、どうなってきたか、またどうなっていくかを探り、その行動が何のためにあって、その動物の繁栄にどう役立っているのかを探っていく学問です。

それはつまり各家庭で飼い主が知っている、日々目にしていることを後から科学で証明するということ。そして最終的なアウトプットは研究した物事をわかりやすくして社会に発信することです。

研究室で共に過ごしている犬達。彼らのキラキラして目からは信頼を感じる(写真提供:増田教授)

なぜ動物行動学を専攻しようと思われましたか?

四国の片田舎の教師一家に生まれました。親戚の多く、両親も教師ということもあり、おじいちゃんの家にいることが長かったのです。酪農が盛んな地域で、おじいちゃんの家に行っては毎日牛を見て育ちました。その経験から、牛の獣医になりたいと思ったのが最初のきっかけです。

大学時代、牛の研究に没頭しました。当時の教授から、タフな研究に対する行動力を期待されたからか、牛は発情しないと母乳を出せないため、どうしたら牛の発情を回復できるかという研究を行いました。牛の子宮にキトサンをいれたら発情を回帰するということが証明でき、研究は成功。

さらに研究を進めたいと思い、東京大学の門戸を叩き、師匠となる教授に出会いました。その師匠が動物行動学を研究されていて、現在も続くこの道に入ったという流れです。尊敬する師匠は10年前在職中に亡くなられてしまいましたが、そこからさらに自分のオリジナルの研究を進めています。

それぞれの学生が自分の研究に没頭する研究室。動物行動学から社会にインパクトを与える研究も多数輩出(写真提供:増田教授)

日々の研究内容を教えてください

私のライフワークは、犬の飼い主に向けられた愛が、科学で(数字で)どのように表現できるか、挑戦し続けることで、犬から平和のヒントを学ぶことです。

噛み砕いて説明すると、高校生の数学で「組み合わせ」や「場合」の証明を学習します。その要領で、動物の行動のパターンを組み合わせて仮説を立てていきます。仮説から確からしいものをピックアップし、それについて検証していくのが研究のステップです。「飼い主が⚪️⚪️すると、飼い犬は▲▲する」という仮説をパターン化し、それらをどのような形であれば最適に検証できるかの方法論を特定し、それについて科学的に実証できるか検証していきます。

私の研究室には50人ほどの学生さんがいて、それぞれが完全オリジナルで、各々が異なる研究をしていますので、本当にたくさんの研究があります。例えば過去の私の研究結果を紹介します。

これは犬や猫を亡くした経験のある飼い主さんを対象とした研究ですが、「もう一度、あの子に合えるなら、何をしてあげたいですか?」と質問して得た回答を分析したものになります。

得られた回答から機械的に抽出した単語と出現回数のリストに統計学的な処置を施し、犬の飼い主さんと猫の飼い主さんの回答の傾向を比較したところ、犬の飼い主さんは「あの子は○○が好きだったから、もう一度○○してあげたい」といった、懐古的な(懐かしんでいる)記載が多く、一方で猫の飼い主さんは、「(最期が苦しかっただろうから)健康管理をしっかりしたい」といった惜別的な内容を記載する傾向が強いことがわかりました。

個人的に、飼育していた動物種が異なることで、これほどまでに飼い主さんのかつての飼育動物への気持ちが異なるとは思ってもみませんでした。おそらく犬の飼い主さんの心の中には、「もう一度あの子に合えるとしたら」、という、常識では決して起きえない状況を想像したときにも、やはり楽しそうで嬉しそうにはしゃいでいる愛犬の姿が浮かんだのでしょう。

私はよく、愛犬を亡くした飼い主さんに、犬を飼うことのゴールとは、亡くした後に「次の犬を飼いたい」と思えるようになることです。」と言います。その子が一生をかけて飼い主さんに教え、身に付けてくれた、飼い主さんの中の「犬を幸せにする実力」を、今度は次の犬にお返ししてほしい、と思うからです。犬は、亡くなった後も、その飼い主さんを飼い主であり続けさせる。これが、犬という動物が持つすばらしい力だと思っています。犬はたとえ亡くなった後でも、平和を作れる動物なのです。

その他にも、犬が嬉しい時に尻尾を右寄りに多く振る、犬は人間の言葉を理解している可能性があるなど、世界各国ではさまざまな動物行動学による研究発表がされています。

研究室で共に過ごす猫 フクちゃん。完全にリラックスする姿は、いつも愛情を注がれていることを想起させる(写真提供:増田教授)

動物行動学を通して目指すゴールを教えてください

研究をする時「私たちが犬から教えてもらう」ということをいつも考えています。1万5千年前から犬が気づいていることに注目すると、犬は無条件で飼い主に愛を注いでいます。

それを言語化すると、
「仲良くするのに理由なんかいらない。」
になると思います。

それを科学的に解明できれば、突き詰めると平和の要因がわかるはずだと信じています。無駄に争い続ける人間に足りないものも、自ずと解明されるはずです。

まだ長い道のりですが、必ず日本が世界をリードできるような研究を実施したいです。

取材後記:

学生が24人ずつ2学年で48人を指導していらっしゃる中、さらに多数の企業ともコラボレーションを行われていたり、取材に応じられたりという多忙な毎日を送っておられる増田教授。大変穏やかな語り口と合わせて、真摯に動物に向き合う姿勢を強く感じることができる取材となりました。動物行動学は、研究過程は大変難解なものですが、その結論は飼い主と犬や猫の普段の生活に役立てることが多いものだとも感じました。何よりも諦めないこと、世の中に役立てることを目指されている教授の姿勢に感動した取材となりました。

動物行動学には犬や猫と過ごす人間が学ぶべきことが詰まっているので、AWGsでは今後も積極的に学び、発信していきたいと改めて確信しました。

インタビュイー
増田宏司(マスダコウジ)獣医師、博士(獣医学)

東京農業大学 農学部動物科学科 教授(動物行動学研究室)。東京大学大学院修了、同大研究員を経て2006年より東京農業大学で教育・研究を行う。犬の飼い主に向けられる愛に注目し、その解明に取り組んでいる。大学で指導する学生によく伝える言葉は、「これぐらいでいいか」と思えるなら、必ず「それ以上」はある。

参考文献:
犬と猫の飼育経験者では,亡くしたペットに対して「もう一度会えるなら,してあげたいこと」の内容が異なる, 増田宏司,東京農大農学集報,60(3),151-155(2015)

シェア

SNSでシェアする

このサイトや気になった活動についてSNSでシェアしていただくことで、この活動をさらに大勢の人に知ってもらうことができ、より良い未来へのアクションとなります。

肉球 このテーマのゴール 肉球

ゴール 6

犬猫の社会性を向上

人間社会へ順応するため、犬猫もマナーを身につける努力が必要です。マナーが良いと、飼い主と良好な関係が築け、一緒に行ける場所も増えます。楽しい生涯を過ごせる犬・猫が一匹でも増えるよう、躾に役立つ情報を世の中に広めていきます。

AWGsアクションポイント

12613pt

アクションポイントとは