繁殖引退犬・猫の存在を知っていますか?
2024.05.25
ペットとして迎える子犬や子猫たちにも、当然ながら親がいます。「繁殖犬」「繁殖猫」と呼ばれる親犬や親猫で、血統書付きであったり、特徴のある犬や猫を繁殖させてペットショップや個人に販売する仕事を生業としているブリーダーのもとで飼育されています。年齢や体調などの理由で繁殖活動を卒業すると、「繁殖引退犬・猫」として余生を送ることになります。性別はメス・オスどちらもいますが、数としてはメスのほうが多数です。
つまり、繁殖引退犬・猫とは、以下の例を含むさまざまな理由で繁殖活動ができなくなった犬・猫のことをさします。
- 年をとって、もしくは下記に述べる回数制限により繁殖期を終えた
- 交配しても妊娠できない
- 病気になって繁殖に向かない
- 遺伝性の疾患がある(発症した)
いまクローズアップされる背景は?
まず、繁殖引退犬・猫の余生を考えるうえで、前提として知っておきたいのが、令和3年6月1日施行の改正動物愛護法についてです。1)動物愛護法の正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」そもそもこの法律は、1973年に議員立法で制定された法律で、動物の愛護と適切な管理を目的としています。すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識して、みだりに虐待することのないようにするだけでなく、人と動物が共生できる社会を目指すために、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うように定めています。 これまでに過去4回の法改正を重ねており、一般・事業者に関わらず動物の終生飼養や適正な飼養及び管理が行われるよう責任の明文化や罰則の強化などが行われてきました。
しかし、残念ながら悪質なブリーダーやペットショップがなくならない現実があると同時に、一般の飼い主のなかにも「人と動物の共生社会」という考え方がいきわたっているとはいえない現実があります。
そこで、令和4年6月の改正法施行により、マイクロチップの装着義務化(一般の飼い主には努力義務)や数値規制、虐待の罰則強化などが行われました。
とくに注目すべきは、飼育頭数や繁殖回数、販売する犬猫の週齢といった「数値規制」が導入されたことです。それまでは、繁殖犬・猫の出産回数や繁殖および交配年齢は、各業者の一存に任されていたのですが、この法改正によって以下の基準が示されました。
- 犬の生涯の出産回数は6回まで、メスの繁殖は6歳まで。7歳の時点で出産が6回未満の場合は、交配は7歳まで。
- 猫はメスの繁殖が6歳まで。7歳の時点で出産回数が10回未満の場合は、交配は7歳まで
- 犬・猫の繁殖には、必要に応じて獣医師の診療を受けさせ、また助言を受けること。
- 帝王切開を行う場合は、獣医師に行わせるとともに、出生証明書や診断書を5年間保存すること。
また、従来は販売してよい子犬・子猫は生後49日(7週齢)とされてきましたが、生後56日(8週齢)までは販売禁止となりました(天然記念物指定の秋田犬・甲斐犬など生後49日)。
これらの数値規制の適用は令和4年6月からで、適用まで1年間の準備期間があったものの、業界内外からは「大量の繁殖引退犬・猫が放出されるのはないか」と懸念されていました。残念なことに、その心配は杞憂に終わらず、繁殖引退犬だと思われる犬が山中で多数見つかる事例も発生しています。
また、動物保護団体の中には、繁殖業者の下請け的な存在として繁殖引退犬・猫を引き取り、「保護犬」「保護猫」と称しているところもあります。
本来、ブリーダーのあるべき姿とは
繁殖引退犬・猫は、血統を継ぐという役割をまっとうするために働いた犬・猫であり、本来であれば「お疲れさま」と労いいたわってもらえる立場のはずです。可愛い子犬や子猫を産んでくれたのですから、繁殖に適さなくなったからといって、使わなくなったモノをリサイクルに出すように値段をつけて売ったり、不要だからと山中に放置したりするのは言語道断といわざるをえません。
もちろんブリーダーの中には、引退後は自分のペットとして最期まで面倒を見る人もいます。しかし、営利目的の事業者である以上、利益を上げて事業を継続するには、繁殖できる個体数を保持または増やす必要があるでしょう。
そのためには引退犬・猫を手放さざるを得ないケースがあるのも仕方がないという見方もあります。すべての引退犬・猫を終生飼育するのは、経済面だけでなく施設や人員の面でも難しいからです。そういうことから考えると、そもそも引退犬・猫をすべて抱えては成り立たないビジネスモデルであるとも言えるのです。
「法律が変わり、繁殖年齢や飼育スペースや人員の規制が数値化されたから、繁殖引退犬・猫を手放さざるを得ない」という見方もあるかもしれません。しかし、それこそ本末転倒です。これまで法改正を行ってきたにもかかわらず、体がボロボロになるまで妊娠・出産を繰り返し行わせていたり、非健康的な環境や条件下で飼育したりする悪徳な事業者がなくならないことが、今回、ガイドラインに具体的な数値を導入した理由のひとつだからです。
血統を正しく次の世代に受け継ぎ、守っていくのがブリーダーの大きな役割です。法改正のあるなしに関わらず、感情のある生き物を扱う仕事としての責任と誇りを忘れないでほしいものです。
繁殖引退犬・猫を迎えるには?
ブリーダーが繁殖引退犬・猫を最期まで飼育し続けるのが本来であっても、現実問題としてそれが難しいのであれば、心ある人が飼育を引き受けることで、親犬・親猫たちに幸せな余生を約束してあげたいものです。
そこで、繁殖引退犬の譲渡について紹介します。まず、繁殖引退犬・猫と出会う場所、方法については以下が考えられます。
- ブリーダーのSNSによる里親募集
- 動物保護団体のホームページやSNSによる里親募集
- 動物保護団体主催の里親探しイベント
里親募集の情報をチェックしている中に、6歳、7歳くらいの純血種がいたら、繁殖引退犬・猫であるかどうかを問合せして確認してみましょう。保護犬・保護猫についてSNS上で公開されている情報の中に、出自やそれまでの育成状況まで書かれていない場合も多いので、個別の確認が必要です。
また、最近のテレビの報道番組で、店頭で子犬・子猫とは別に繁殖引退犬・猫を扱っているペットショップが紹介されていました。ペットショップ側は「親犬・親猫にも幸せな出会いを取り持ちたいという気持ちから、そうしたプロジェクトを立ち上げた」とのこと。
価格は通常の子犬・子猫の三分の一程度。「必要経費を除いたらほとんど利益はない」とのことでしたが、本来であれば、ブリーダー側で必要のなくなった犬・猫を譲渡するわけなので、そこから多少なりとも利益を得ようとする考えには賛成できない向きもあります。
繁殖活動を卒業した親犬と里親との橋渡しを行っているある動物保護団体では、譲渡時にワクチン代や避妊手術代等で3万円~5万程度の費用をいただいているそうです。この金額は、通常の保護犬・保護猫の譲渡費用と変わりはありません。
ただし、なかには繁殖引退犬・猫であっても血統書がついているからということで、10万円前後の金額を設定していたり、一定期間ペットフードの購入を条件にしたりする団体もあり、注意が必要です。
迎えるにあたって知っておきたいことは?
まず、繁殖引退犬・猫は、交配、妊娠、出産を繰り返し、可愛い子犬や子猫たちを世の中に与えてくれた尊い存在であることを認識しておきましょう。利益第一優先でブリーディングを行ってきた業者のもとから保護された犬の中には、犬歯を抜かれていたり、大きな吠え声が出ないよう声帯の手術をされていたりする場合もあるようです。
そうしたすべてを受け入れ、まずは「ご苦労さまでした。これからは一緒に楽しく暮らそうね」という気持ちをもって、労わって育ててあげたいものです。
次に、家庭環境や家族に慣れるには、ある程度時間がかかることを覚悟しておきましょう。子犬や子猫の場合は、これから肉体的にも精神的にも成長していくので、一からその家の環境や習慣になじみやすいのですが、繁殖引退犬・猫の場合は、育ってきた環境や習慣もさまざまであり、新しい環境への適応に時間がかかることが考えられます。
さらに、ブリーダーによっては一般的なペットと同じように、家の中で一緒に暮らしている場合もありますが、外のゲージ内で多頭飼育されている場合も少なくありません。そうした場合は、犬でも毎日散歩に行くような習慣がなく、トイレのしつけもされていないケースが多いようです。散歩(犬の場合)、トイレのしつけは子犬・子猫を育てるような根気強さが必要とされます。
なお、ブリーダーのSNSで里親探しをする場合は、直接ブリーダーのもとを訪ねられるので、飼育環境や衛生状態をよくチェックしましょう。ブリーダーが心のある優良な業者であるかどうかも、直接会えば確かめられるのでより安心でしょう。もし、先住犬や猫がいる場合や、家族に小さな子供や年配者がいる場合は、譲渡を希望する子の性格をブリーダーや保護団体から聞いて、家族としての相性を判断するとよいでしょう。
まとめ
可愛い子犬や子猫をこの世に贈ってくれた親犬や親猫たち。繁殖という仕事を卒業したあとは、一般家庭で家族としての愛情に包まれて幸せな時間を過ごしてほしいものです。
AWGsでは保護犬・保護猫の中にはそうした繁殖引退犬・猫がいることを知って、里親になってくださる方が増えるよう働きかけ続けます。
参考文書
このテーマのゴール
ゴール 5
すべての犬猫へ人のぬくもりを
あたたかな家庭で人のぬくもりを感じられない犬猫がいます。そもそも飼い主がいない犬猫や繁殖活動を引退した犬猫などです。家族がいない犬猫や繁殖活動の引退後の犬猫が、家庭のぬくもりに満ちた余生を送れるよう認知を高める活動を行います。