【山田あかね監督インタビュー】人の優しさは希望。戦地で保護活動をする人々を通して見た世界と日本

2025.02.08

目次

AWGsでは日本と世界の比較から日本の動物福祉や法律について発信しています。
世界を眺めると、動物福祉の意識が日本より高くても、その国が平和とは限りません。
ロシアとウクライナの戦争が始まって約3年…ウクライナの戦地に出向き、動物を助ける人にフォーカスし取材したドキュメンタリー映画「犬と戦争 ウクライナで私が見たこと」を公開する山田あかね監督に、現地のリアルとそれを通して見た日本について、AWGs担当が取材しました。

©『犬と戦争』製作委員会

目に留まったのは―爆撃から犬と共に避難する姿

2022年2月24日に、ロシアがウクライナに侵攻し、テレビやインターネットで状況を注視していました。がれきの中で中型犬を抱えて逃げていく人の動画がふと目に留まりました。

その姿が目に焼きついて、戦地で動物を助けている人たちのことをもっと知りたくなりました。インターネットでたくさんの画像や動画を検索する中で、戦争という有事の中でも、当たり前のように動物と一緒に逃げる人もいるし、救おうとする人がいるということに改めて気付かされました。

そのような現地のリアルを取材し世界に届けるのが使命だと思い、侵攻直後ではありましたが実際に足を運ぶことを決めました。それが今回の映画を撮ることになったきっかけです。

遺書を残してカメラマンと共に戦地取材へ

日本から戦地に向かったのは、私とカメラマンの2人でした。戦地で何かあっても保険はおりないので、出発前に遺書を書いていきました。「もし自分に何かあったら、全財産をカメラマンの家族に譲る」そんな内容です。

まず最初にポーランドへ行きました。ウクライナとの国境付近で、戦争によって行き場を失った動物たちを助けている団体や人々を取材しました。撮影チームには、日本語が話せるポーランド人の観光ガイドの女性、国境付近に詳しいポーランド人ドライバーの青年でした。

侵攻直後ということもあり、ウクライナ語と日本語の両方が話せる通訳や、確かな情報を確保するのは難しかったです。住所もわからないシェルターの情報を聞きつけると、車で走り回って3日かかってようやく探し当てるような、手探りの取材でした。アニドネさんが支援していたIRS(InternationalRegistrationSystems)の担当者をご紹介してもらったりもしました。

結局、取材開始から3年、この映画を撮るために3回、戦地に赴くことになりました。そこには常に危険がありましたが、それ以上に、撮ることの意義を感じました。

余談ではありますが、通訳としてウクライナで出会った青年とは、その後も付き合いが続いています。彼は日本に避難してきて、今うちに住んでいるんです。それくらい、戦地での出会いは特別なものになりました。

人間が生んだ戦火の愚行の中でも垣間見える人間の優しさ

戦争は、人間の愚かさが露呈する最たる事態ですが、そんな中でも動物たちのために、自分のリスクを顧みず動く人がいるということは、伝えておきたかったところです。大きな歴史の中では、ロシアがウクライナに侵攻したということしか残らないでしょう。

一方で、歴史に残らなかったとしても、戦時中でも動物を救う人々がいたことに、人類の根本的な優しさがあると感じて、それを伝える役を自分がやりたいと思いました。

実際に動物を助けている人たちは、地球は人間だけのものではないことや、動物によって人間が支えられている部分があるということをわかっています。そこは世界共通で言葉もいりません。犬と人間の心が通じた瞬間の喜びのようなものでしょうか、何物にも変えがたいですよね。それがあるから、たとえ危険があっても動物を保護しようという強い気持ちになるのだと感じました。

作中にも、世界中の戦地に行って動物を助ける人の姿や、戦争で傷ついた人が犬に癒されるシーンを映しています。傷ついている中でも、動物と触れ合う時には本当に優しい目をしています。その人たちの眼差しから、感じ取っていただけるものがあると嬉しいです。

©『犬と戦争』製作委員会

動物福祉の進んでいるヨーロッパと日本との違いを痛感

私は、今回のウクライナだけでなく、日本でも被災地などの取材を重ねています。その中でも今回一番驚いたのは、避難のスタンスの違いです。ポーランドの駅にウクライナから避難してくる人が到着すると、大型犬も含め動物と一緒に電車から降りてくる人がたくさんいました。それについてインタビューしましたが、そのこと自体なぜ聞かれているか分からないくらい、当たり前のことなんですよね。犬や猫が電車に乗っていると、むしろ子供が喜んだりみんなが笑顔になるからウエルカムということでした。残念ながら日本では、有事の際に避難を促された時、犬と同乗したくても「犬は乗れません」と断られるのが現状でしょうね。

ヨーロッパ全般が動物愛護の進んでいる地域ですが、ウクライナがここまで進んだのはこの2、30年のことらしいです。別で取材に行った台湾も殺処分ゼロを達成し、動物愛護教育までものすごく仕組みが整っていて驚きましたが、それもこの15年程度で進化したということでした。

ヨーロッパは200年以上の歴史があるからできるのではなく、政治も含めて実行しようと決めたら動物福祉は前進するんだということを痛感しました。

社会は確実に変えられる

愛犬の死をきっかけに、震災も含めて14年ほど動物保護を取材しています。その取材を通じて感じたことは、「社会は変えることができる」ということです。日本の殺処分は2011年に18万匹だったところから、今では1万匹まで減りました。

取材を続けている動物愛護センターは、通うたびに、大部屋だった犬の部屋が個別になったり、ワクチンを打ったり、ドッグランができたりと少しずつ変わっていきました。獣医師である副センター長は、毎日のように動物愛護センターに足を運ぶ動物保護団体の方の熱心な姿に心を打たれて、自分も改革をしなければと思ったそうです。

動物を救おうという行動は、必ず誰かが見ていて見た人たちの心を動かし、心が動いたらシステムを変えることができるんだということを間近で見ることができました。そして、取材を続けることも意味があるという風に実感しました。私は取材という方法で、少しでも彼らのことを伝えることが世の中を少しは良くすることに繋がるのではと思っています。

動物を救おうという思いは、世界共通ということは、今回の戦地取材でよりクリアになりました。実際に動物を助けることは本当に大変だと思いますが、ぜひ動物の力になってあげてください。ハナコプロジェクトでも、ぜひご協力させていただきます。


編集後記

試写会にて先んじて「犬と戦争 ウクライナで私が見たこと」を拝見させていただき、今回の取材に臨みました。映画の中で一番印象に残ったのは、動物を助けている人間が、動物に癒されている様子です。

映画の中に映る戦地は、この平和な日本では想像し得ないほど凄惨なものでしたが、そこで動物を助ける人たちの目は輝いているようにも見えました。

今回の取材では、実際に撮影された山田監督の目を通して、日本はどう見えるのかをお伺いでき、大変貴重な時間となりました。日本でもまだまだできることがあると、山田監督の言葉からパワーをいただくことができました。


映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』

ロシアによるウクライナ侵攻から3年。小さな命を救うために奮闘する人々を追った《希望》のドキュメンタリー。

2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻。これまでに数々の作品で犬や猫の命をテーマに福島や能登などの被災地への取材を重ねてきたドキュメンタリー映像作家・山田あかねは、〈戦場にいる犬たちの現実を伝えなければ〉という覚悟のもと、侵攻から約1ヶ月後、戦禍のウクライナでカメラを回す。そして、ある衝撃的な事件を知ることになる。「戦場にいる犬たちに、何が起きたのか?」─ その真相を探るため、3年にわたりウクライナへ通うことになった。ナレーションは俳優の東出昌大。猟師として日々命の現場に立つ東出の言葉は、私たちに現実を突きつける。

犬たちを取材する中で見えてきたのは、戦争に翻弄される人々の姿、そして様々な立場から語られる平和への願いだった。本作は、戦禍のウクライナで《戦うこと》ではなく、《救うこと》を選んだ人々による希望の物語である。

<作品概要>

■タイトル                         : 『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』
■公開表記                         : 2025年2月21日(金)より全国公開
■コピーライト                  : ©『犬と戦争』製作委員会
■公式サイト                     : https://inu-sensou.jp/
■公式X                             : @inu_sensou(https://x.com/inu_sensou

山田あかね監督プロフィール

映像作家。東京都出身。テレビ制作会社勤務を経て、1990年よりフリーのテレビディレクターとして活動。ドキュメンタリー、教養番組、ドラマなど様々な映像作品で演出・脚本を手がける。2009年に制作会社「スモールホープベイプロダクション」を設立。2010年、自身が書き下ろした小説を映画化した『すべては海になる』で映画初監督を務めた。その後、東日本大震災で置き去りにされた動物を保護する人々を取材したことをきっかけに、監督2作目として『犬に名前をつける日』(’15)を手がける。2021年には、青森県北里大学に実在した動物保護サークルを題材にした映画『犬部!』では脚本を務めた。2022年2月24日に起きたロシアによるウクライナ侵攻から約1ヶ月後、本作の取材を開始。その最中で、飼い主のいない犬や猫の医療費支援をする団体「ハナコプロジェクト」を俳優の石田ゆり子と創設した。現在は、元保護犬の愛犬“ハル”と暮らす。

一般社団法人ハナコプロジェクト

飼い主のいない犬と猫の医療費を支援する団体。2021年、テレビディレクター/作家・山田あかね、俳優・石田ゆり子の2人により設立。現在、全国13の協力動物病院にて、保護犬・保護猫が無料で医療(不妊去勢手術・仔犬、仔猫の初期医療)を受けられるしくみをつくっている。

■公式サイト                     : https://hana-pro.com

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