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活動レポート

更生を支える、保護犬と向き合う時間「保護犬育成プログラム」AWGs Specialアンバサダー秋山拓巳さんが見た現場

2026.02.03

目次

刑法改正と動物福祉の新たな取り組み 

AWGs Specialアンバサダーとして、保護犬が一頭でも多く幸せをつかめる社会を目指し、継続的に発信と行動を続けている阪神ベースボールアンバサダー・秋山拓巳さん。今回アニドネ認定団体でもある「認定特定非営利活動法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(以下、PFLJ)」が法務省 近畿矯正管区、姫路少年刑務所との連携で実施している「保護犬育成プログラム」に参加しました。現場をともに見つめながら、今回の新たな取り組みへの思いや社会的な意義についてお話を伺いました。

このプログラムは、受刑者の社会復帰支援と保護犬の育成を目的としたものです。受刑者と保護犬、双方向き合う時間を重ねるなかで生まれる変化やプログラム関係者の努力は現場に立ってこそ感じられる空気感がありました。

犬が介在することで、更生や再犯防止にどのようにつながっていくのか。制度や理論だけでは語りきれない、姫路少年刑務所での取り組みを、取材を通してお伝えします。

大きな転換となった制定後約100年ぶりの刑法改正

2025年6月に刑法が改正され、従来の「懲役刑」「禁錮刑」に代わり、「拘禁刑」が創設されたことをご存知でしょうか。これは、実に約100年ぶりとなる刑罰の種類の見直しです。

この改正の背景には、再犯防止と社会復帰支援をより重視する刑罰理念への転換があります。「拘禁刑」とすることで、受刑者一人ひとりの特性に応じた柔軟な処遇や、更生プログラムの実施が可能となり、従来の制度が抱えてきた限界を補おうとしています。また、再犯率への対策として、刑務所内外を通じた支援のあり方を見直す必要性が高まっていたことも、改正の大きな理由のひとつとのことです。

こうした大きな転換の流れのなかで、受刑者の更生と保護犬のトレーニングの双方にとって意義のあるプログラムが動き始めています。これまでも少年院で犬が介在する活動は行われてきましたが、刑務所において更生の一環として犬が関わることは、やはり大きな変化であると感じられました。

今回同行させて頂いた「保護犬育成プログラム」は法改正からいち早く、月に一度実施され、六回目に当たる2026年1月8日でした。

保護犬と向き合うことで学ぶ、信頼のかたち

このプログラムを通じて保護犬は人に慣れ、社会化を進めたうえで、温かく迎えてくれる家族へと譲渡されることを目指しています。参加している保護犬たちは、それぞれ異なるバックグラウンドを持っており、新しい人や場所に触れることも、社会化に欠かせない大切なプロセスです。

プログラムを実施する上で、犬にとって人の肩書きは関係ありません。ドッグトレーナーであっても、受刑者であっても、あるいはプロ野球選手であっても信頼できる相手かどうかが判断基準になります。犬は人の様子や態度をじっと見て、応えるかどうかを決めています。

人の感情を敏感に察し、言葉に頼らず、目や態度で思いを伝える犬に対して、どんな表情で、どう向き合い、何を伝えるのかが、受刑者にとって大切なポイントだと感じました。

今回取材したプログラムでは六回目ということもあり、受刑者たちは保護活動の現状や、犬たちが保護されるに至った背景、そして保護犬にとって社会化やしつけがなぜ重要なのかを理解したうえで、この取り組みに参加していました。

動物福祉に配慮された「保護犬育成プログラム」

実際に、どのような形でプログラムが実施されたかをご紹介します。

13:30 姫路少年刑務所正門 
・PFLJから車移動で1時間半、それぞれのケージに入った保護犬達が到着

13:40 刑務所内運動場
・保護犬達はPFLJスタッフに連れられ、歩いたり排泄したりするなど軽く身体を動かします

14:00 刑務所内会議室
プログラム開始
・秋山さんからの挨拶(今回のみ特別に)
・PFLJドッグトレーナーからプログラム参加受刑者(4名)に対して今回のしつけの内容や意義のレクチャー
・学んだ知識を活かすべく、一人と一頭でペアになり「待て」「伏せ」「ポール」などの実践練習
・最後に学んだことの発表として、全てのコマンドを一人ずつ披露
・保護犬たちのブラッシングと体拭き
・片付け

14:45 刑務所内運動場
・トレーニングをがんばった保護犬たちへのご褒美として運動場内をたくさん走り回る

15:00 解散
・保護犬たちは元の車に乗り帰路へ

全行程でも1時間半と保護犬たちが集中できる時間で、姫路少年刑務所の職員さんも犬たちがリラックスできる環境づくりに心を配っているところが印象的でした。

保護犬と受刑者、双方の自己肯定感や自信を育む

実際にプログラムを見学してみると、犬をリラックスさせるためにトレーナーは笑顔で、受刑者も真剣に犬と向き合っている様子が伺えました。犬が何かをうまくできたときには、拍手が起こる——そんな和やかな空間が広がっていました。

プログラムの最中には、ペアではない犬が近づいてきてリードが絡まったり、指示がうまく伝わらなかったり、ご褒美のおやつを落として先に食べられてしまったりと、受刑者たちが試行錯誤する様子も見られました。それでも受刑者は焦りなどの気持ちを抑え、保護犬とトレーニングに取り組んでおり、最後の発表では、すべてのペアが指示を成功させる姿を見ることができました。

秋山さんはトレーニングを手伝ったり、少し離れて見守ったりしていました。野球経験のある受刑者は、秋山さんと話す中で少し緊張した様子を見せていました。憧れの人を前にした自然な反応だったように思います。ここが姫路少年刑務所でなければ、刑務官がそばにいなければ、一般のしつけ教室と変わらないと感じる光景でした。

保護犬プログラムで起きた変化

姫路少年刑務所でこのプログラムを牽引する法務事務官 看守長である笹原さんは、次のように話します。

「最初の一、二回は、どうプログラムを進めるのが正解かわからず、笑顔どころではありませんでした。保護犬も不安で言うことを聞かず、人間側も何をすればいいのかわからない状態からのスタートでしたが、そこから考えると大きく前進しています。犬たちにも受刑者にも、確かな変化が見えてきました。犬のしっぽの振り方もそうですが、何より受刑者の表情や笑顔がまったく違います。それを見るだけでも、この取り組みの意味を感じます。

これまで自分のことしか考えられず、犯罪に及んだ後も被害者に思いを向けられなかった受刑者が、犬と接するなかで犬の気持ちを理解しようとし、初めて他者の存在や感情を考えるようになりました。その変化が、何より嬉しく、強く印象に残っています。この保護犬プログラムがなければ、出所の時点でも、そこまで考えられていなかったはずです。」

「ありがとう、みーくん。元気でね」

参加した受刑者の感想文をご共有いただきました。全ては紹介しきれないので抜粋で紹介します。
文章は、共有いただいたものをそのまま掲載しています。

今回でチワワのみーくんが最後ということを知り、とても淋しいです。みーくんは。前回の「第5回」で初めて担当しましたが、改めて犬が可愛いと感じ、そして社会復帰後に犬を飼うことによって、自分の生活リズムを整えることにも繋がる、と気づくことができたり、様々なことを教えてもらえたこともあるので、とても名残り惜しく思います。(中省略)新しい家でも、元気に過ごして欲しいです。ありがとう、みーくん元気でね。

自分は、人と話す時など、相手の目をよく見て、相手の感情を読み取ります。秋山さんの犬を見る目、僕達を見る目は本当に、今は言葉になりませんが、何か、心でうったえているような感じでした。自分も外に出たら、自分の為ばかりに生きるのではなく、誰かの為に必死に生きようと想います。近くに居てくれている人、自分の事を想ってくれる人を大切に、大事に、一生懸命考えて、生きていきたいです。

(前省略)このように犬の気持ちを心の底から考えて犬と接しているように、人の気持ちもしっかり考えていこうとこのプログラムを通して思いました。今回起こした事件も人の気持ちを考えていたら起こす事のなかったはずの事件だと気付きました。とは言っても過去には戻れません。もう刑務所には来る事のないように再犯のない人生を送りたいです。人の気持ちを考えて、どうしたら喜んでくれるかを考えて起こす行動の方が人生は豊かになるのでないかと思うので小さな気配りからでも少しずつ始めます。

保護犬の姿勢から汲み取れる変化

プログラムの運営を担うPFLJのドッグトレーナー・石本さんが感じている変化は、保護犬たちが少しずつ自信を持って人と向き合えるようになってきたことだといいます。

「特にルカくんときこちゃんは、尻尾や腰の高さなど体の姿勢から変わってきています。初めて会う人との向き合い方や、トレーニングに取り組む態度も大きく変わってきました。目標はもちろん譲渡ですが、保護犬が人との距離を縮め、共に生きていくための土台づくりとして、このプログラムはとても役立っていると感じています。」

少年刑務所と保護団体の強い信頼関係

プログラムの実施にあたり、姫路少年刑務所とPFLJの担当者は、回を重ねるごとに改善を続け、よりよい形を模索してきたことが見受けられました。積み重ねのなかに、互いへの信頼がなければ成り立たない、丁寧な相互努力とコミュニケーションがあることが伝わってきました。

「実際にプログラムを始めるにあたって、不安がなかったわけではありません」と話すのは、PFLJの尾添理事(獣医師)です。それでも現場で見守る立場として、保護犬も受刑者も少しずつ成長していく過程を目の当たりにし、確かな手応えを感じるようになったといいます。現在は、その経験をもとにマニュアル化にも取り組んでいるとのこと。「安全に実施できるプログラムとして整えるために、まずは確実な運用を重ねています。姫路少年刑務所発のモデルとして他施設への展開も視野に入れられる段階になってきました。」と次の段階も見据えていらっしゃいました。

成功体験を引き出すプログラム

今回のプログラムに参加したAWGsアンバサダーの秋山さんに感想を伺いました。

「初めてこのプログラムに参加し、受刑者の方とルカくんの触れ合いが、とても印象に残りました。最初は失敗しても、何度も繰り返すうちにできるようになって、そのときの笑顔が本当に良かったですよね。やはり成功体験は、どの職種でも、どんな立場でも大事なことだと思います。

テレビなどで見てきた刑務所のイメージから、来る前は少し不安もありましたが、受刑者の方たちが笑顔で保護犬に接し、気さくに会話してくれる姿を見て、印象が大きく変わりました。このプログラムを通じて、いろいろなことを考えたり、さまざまな感情を抱いたりするのではないかと思います。僕自身、野球がうまくいかない時期に犬に助けられてきたこともあり、改めて犬の持つ力を実感しました。この活動がこれからも続いていくといいですね。そして、保護犬たちが温かい家庭に迎えられ、幸せになることを願っています。」

まとめ:共に生きる社会へ

姫路少年刑務所とPFLJが取り組む保護犬育成プログラムは、刑法改正という時代の転換を背景に、動物福祉と人の社会復帰支援を同時に見据えた、実践的な試みだと感じました。関係者一人ひとりの粘り強い姿勢による工夫と、保護犬が持つ力が重なり合うことで、受刑者の表情や行動に確かな変化が生まれています。その積み重ねが、社会復帰や再犯防止につながっていく可能性を、現場では確かに感じ取ることができました。

そして、秋山さんのように社会的影響力を持つ存在が現場に足を運び、同じ空間で犬と人に向き合うことは大きな意義があると感じました。特別な言葉を投げかけなくても、秋山さんの真摯な姿勢や距離感が、受刑者にとって一つの「社会との接点」として作用しているように見えました。

現在も姫路少年刑務所とPFLJは、より良いプログラムとなるよう、模索しながら改善を重ねていらっしゃいます。目の前で起きている小さな変化を丁寧に積み上げていくことが、結果として人と動物が無理なく寄り添い、共に生きる社会へとつながっていくことを感じられる取材となりました。

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秘めた能力を解放させよう

人を支える犬がいます。近年は、研究の成果、動物との触れ合いが、人の心を癒したり痛みを緩和する効果を持つことが分かってきました。人に寄り添って心を癒すことを仕事とする犬猫の活躍の場を広げていきます。犬に過度な負担をさせないのが原則だと考えています。

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