活動レポート
優良ブリーダーを見抜く目を持とう_第一回~見抜くのが難しい構造的な問題~
2025.11.11
愛犬を家族に迎えるとき、どこから迎えるかはその子の一生を左右する大切な選択です。
日本では依然としてペットショップ経由の流通が主流ですが、近年は「ブリーダーから直接迎える」ことを選ぶ人も増えてきました。
しかし「ブリーダーから直接だから安心」というわけではありません。むしろ、動物福祉を無視した形で繁殖を行なっているブリーダーが直販に参入しているケースも少なくなく、飼い主自身が“見る目”を養うことが不可欠です。
そこで全3回にわたって、海外基準も参照しながら、優良ブリーダーを見抜くためのポイントを整理していきます。
本記事では、優良ブリーダーを見抜く難しさについて解説していきます。
国内で報じられた悪質事例

日本各地で明らかになったブリーダー関連の事件は、表面的には分からない繁殖現場の深刻な実態を浮き彫りにしています。
ここでは、近年報道された代表的な事例を紹介します。
1.150頭プードル悪臭事件
2025年夏、共同通信などで「150頭のプードルが悪臭と糞尿まみれの環境で放置されていた」ブリーダー宅の実態が報じられました。
犬舎は清掃が行き届かず、糞尿の悪臭が充満。伸びきった毛や不衛生な状態で、狂犬病予防接種を受けていない個体も混在していました。典型的な多頭飼育崩壊型の悪質なブリーダーの例であり、管理能力を大幅に超えた繁殖が行われていたことが明らかになっています(1)。
2.誕生日改ざんによる幼齢販売
さらに2024年には「子犬の誕生日を偽装し、法律で禁止されている生後56日未満の販売をすり抜ける」事例が明らかになりました(2)。
全国約1,400事業所を対象にした調査では約半数で法令違反が確認され、出生日の改ざんも強く疑われるという深刻な実態が浮き彫りになっています。
なぜ見抜きづらい? 隠された構造的な問題

悪質ブリーダーの存在は表面的な問題ではなく、業界構造・情報公開・消費者教育の不足といった複数の要因が絡み合った「見抜きづらさ」に根ざしています。
ここでは、その背景にある3つの構造的課題を整理します。
1. 見学や写真・動画だけでは本当の姿が分からない
SNSや販売サイトに掲載されている写真や動画は、ブリーダーが“見せたい部分”を切り取って加工したものである可能性があります。実際に、販売予定の子犬だけをシャンプーしてきれいに見せ、その他の犬は不衛生なまま放置されていたという事例も報告されています。
また、犬舎見学があったとしても安心はできません。多くの場合、見学者は準備されたスペースで30分程度、子犬だけを見せられるにとどまります。母犬や繁殖犬の生活環境、犬舎全体の衛生状態、犬同士の関わり方など、本来チェックすべき要素は公開されないままです。
つまり、飼い主が“実際に見せてもらえる情報”には限界があるということです。
2. 厳格に審査をしているブリーダーサイトはほとんどない
「直販サイトに載っているから安心」と考える飼い主は少なくありません。しかし実際には、大手を含め多くのブリーダーサイトで厳格な審査は行われていないのが現状です。
登録時に確認されるのは「動物取扱業の登録証」の提出程度であり、これは最低限の法令遵守を証明するだけにすぎません。犬舎の衛生状態や繁殖方針といった重要な点はほとんどチェックされません。
さらに、審査基準そのものが不透明だったり厳しくないというケースも多いです。仮に基準が存在しても「法令を満たしているかどうか」といった表面的な内容にとどまることが多く、その内容自体も詳しく公開されていません。つまり、飼い主はどのような基準で“優良”と判断されたのかを知ることができないのです。
結果として、サイトに掲載されているだけで「優良ブリーダーなのだろう」と誤解されやすく、実際には悪質なブリーダーが紛れ込んでいるリスクがあります。
なお、先ほどの「150頭プードル悪臭事件」のブリーダーも、大手販売サイトに優良ブリーダーとして掲載されていたようです。
3. 情報の非対称性と専門知識の不足
日本の販売現場では、子犬を「売る」ことが最優先されるため、都合の悪い情報は意図的に伏せられやすいという問題があります。例えば、人気のミックス犬やティーカッププードル、豆柴といった犬種には健康リスクが伴いますが、そのリスクは基本的に購入者に知らされることはありません。
また、ブリーダーを見抜くために必要な繁殖や飼育に関する情報も公開されることはほとんどなく、優良ブリーダーを選ぶための明確な基準も整備されていません。
その結果、飼い主は子犬の可愛らしさばかりに注目しがちで、親犬の健康状態や飼育環境といった観点そのものを持たないまま判断してしまうことが多いのです。
さらに、口コミも本来であれば有効な情報源となるはずですが、現状では十分に機能していません。多くのレビューは「子犬をお迎えした感想」にとどまり、子犬を見ただけで、犬舎の様子や親犬の健康状態、社会化の取り組みといった本質的な情報には触れていません。
こうした状況により、知識や観点を持たない飼い主と、情報を積極的に開示しない販売業者という組み合わせが固定化され、悪質なブリーダーを見抜くことが難しくなっています。
まとめ
悪質なブリーダー問題は、販売業者のチェック不足や情報の非対称性といった構造的な課題が根底にあります。
見た目の可愛さや「直販だから安心」という印象だけでは、ワンちゃんの本当の背景までは見えません。母犬の健康状態や繁殖環境を確認し、説明が不十分な業者には慎重になるなど、飼い主側の意識が欠かせません。
“命を迎える”という選択は、その子の未来を左右します。
一人ひとりが知識を持ち、正しい視点で選ぶことが、苦しむ命を生まない社会への第一歩です。
次回は、海外基準からみる優良ブリーダーのヒントをご紹介します。
参考文書:
1) 47NEWS ”悪臭、汚物、伸び切った毛……「150匹のプードル放置」ブリーダーに直撃ルポ 関係者らが告発、多頭飼育崩壊の実態は?” URL
2)環境省報道資料 ペットオークション・ブリーダーへの一斉調査結果について URL
このテーマのゴール
ゴール 11
健やかな一生を
目の前にいる可愛い子犬・子猫が、どこで、どのように生まれたのか、思いを馳せてみましょう。親元から離され、長距離輸送により精神疾患を病んだり、遺伝子疾患などの健康問題を抱えた子が存在しています。多くの犬猫が健康体で人生のスタートを切れるようにするための方法を考えていきます。