思い出になってしまう

To:ジジ

From:リサいぬ

17年間幸せと思い出が詰まったまま、パピヨンのリサが天国に召された。リードをしないので、車に乗せて荒川の運動場まで散歩に行く朝晩、自分を仲間と思っているのか、幼児の遊んでいる水場に飛び込んでは潜って見せたり、一緒に滑り台を上ったり下りたりと、困らせたり喜ばせたりする子だったので、思い出に浸り泣いてばかりの日々だった。 その二週間後、荒川の土手でカラスに取り囲まれた黒い子猫に出くわした。 小さな体で必死で威嚇する子猫を抱き上げると、腕に子猫の安堵が伝わった。 その日は連れ帰る事が出来ず、心を残しながらの次の朝、昨日の土手に車を止めると、まるで待っていたようにその黒猫が草むらから現れた。 12月24日だったので、リサが悲しみ嘆く私に、励ましのクリスマスプレゼントを贈ってくれたと感じた。 美しいグリーンの瞳に艶やかな黒い毛。おなかがすくと「ごはあ~ん」と話すようになり、夜はベッドの足元にお互いを感じながら眠り、布団をもちあげると腕の中でグルグルと甘えた。 言葉は話さなくとも気持ちが通い合う存在は、日々を豊かな幸せで満たしてくれた。 思い出になっても、其々かけがえが無く愛おしく、その姿は活き活きとした日々の記憶に彩られている。 その二年後、捨てられたのか茶白の子猫が、足元にすり寄ってきた。 ヒロシとなずけた彼は、ジジの弟分として我が家の子供になった。 ジジとヒロシは、追いかけっこにプロレスごっこで私達を楽しませてくれた。 脱走しないよう、ネットでガードしたお庭で遊ぶ二匹の元に、ブチの猫が遊びに来ては、フェンス越しに集会をする様になった。ブチが望むなら家の子にしようかと思う程、微笑ましい風景だった。 一度フェンスをよじ登って庭に入ってきたが、私に気が付き、大慌てであちこちぶつかりながら逃げ出し二度と庭の中に入って来る事は無かった。 それでもブチはジジをお気に入りで、よく訪ねてきた。 夜中にトイレに起きると、鈴を鳴らしながらジジが私の足元に寄って来る。その日はジジの鈴の音が聞こえない。 「ジジどうしたの?」 眠っているような突然の死。もっと可愛がりたかったのに、たった5年で私の元を去ってしまった。 泣きじゃくる私を、利口なヒロシは途方に暮れたように遠巻きに見ていた。 全ては思い出になってしまったけれど、パンジーの咲き誇る庭で、皆が楽しく遊んでいる姿が見える気がします。