年上のいもうと

To:ナッキー

From:五十嵐廣幸

小学生の時にメスのマルチーズと暮らし始めた。初めての犬だった。家族で観に行った映画の主人公から名前を貰いナッキーと名付けた。ときどき彼女は「獲物を仕留めた」といわんばかりに、父親が一日中履いた靴下を咥えて、それを力強く左右にバタバタと振りまわした。「くさい、くさいよ!」私と妹はふり撒かれる靴下のニオイから、笑いながら逃げまわったのを今でもよく覚えている。 一番年下だったはずのナッキーは、いつの間にか私たち兄妹の年齢を追い越して天国の散歩に出かけた。一週間ほど泣き続けていた私に向かって母は「お婆ちゃんが死んだ時よりも泣いている」と少し呆れて言った。だってナッキーは映画「生徒諸君!」以上に毎日の暮らしに新しい風を運んでくれた。飼い主の責任だけでなく、犬と人との大切な友情を私に教えてくれたのだから。