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活動レポート

「犬猫の遺伝性疾患」第2回 予防法と私たちにできること

2023.09.24

目次

AWGsゴールの「ありのままの姿を愛そう」のテーマの一つが「病気や障害も受け入れる」です。今回は、遺伝子の変異が原因で引き起こされる疾患を指す「遺伝性疾患」について取り上げます。

第一回の記事では、「遺伝性疾患」の仕組みや背景にある無秩序なブリーディングのリスク、品種別に罹りやすい疾患の例や日本の現状などをご紹介しました。

前回に引き続き、米ボストン大学で遺伝学研究を行う茂木朋貴先生に、犬猫の遺伝性疾患を予防する取り組みや今後の展望などについてお話を伺いました。

犬猫の遺伝性疾患を予防する取り組み

前回の記事でお伝えした通り、残念ながら遺伝性疾患を完全になくすのは難しいのが実情です。また、遺伝性疾患だと判明した場合の本質的な遺伝子治療は実用化には程遠く、苦痛をやわらげるための対症療法しかないとされています。(※1)

そこで重要なのが、遺伝性疾患発生の予防です。

遺伝性疾患を予防する有効な手段として、本記事では国内外の事例を踏まえて2つご紹介します。

一つは、動物の交配・繁殖に対する法規制。もう一つは日本でも研究が進んでいる遺伝子診断です。

(出典※1:獣医臨床遺伝研究会 フォーラム 『伴侶動物の遺伝性疾患』)

短頭種の犬の繁殖を禁止するオランダの取り組み

殺処分ゼロや生体販売禁止に代表されるように、世界有数の動物愛護先進国であるオランダでは、2014年「短頭種」20種の繁殖を禁止する法律が制定されました。(※2)

「短頭種」は、パグやフレンチブルドックなどの極端に鼻が低い品種を指します。外見の愛くるしさから日本でも“鼻ペチャ”と呼ばれ人気の犬種ですが、「短頭種気道症候群」という呼吸器系疾患を発症しやすいなど、深刻な健康リスクを抱えているのです。

2020年には同法律を改正。法の抜け穴をなくし、より厳格に運用するため「マズルの長さが頭蓋骨の奥行きの3分の1に満たない犬を繁殖に使ってはいけない」など6項目にもわたる具体的な数値が盛り込まれました。

さらにオランダ政府は、短頭種や折れ耳の猫の新たな飼育禁止、展示や宣伝禁止をも検討するなど、デザインブリード(動物の健康を無視して人間の好みに合わせて“デザイン”するブリーディング)が孕む問題に意欲的に介入する姿勢を見せています。

オランダの例のように、遺伝性疾患のリスクを高める人間本位の交配や繁殖に対し、法を以て対応するのは有効な手立てだと言えるでしょう。

実はこうした政府による法規制も、獣医師や動物愛護団体らの地道な市民運動が実を結んだものだとか。声を上げ続ける大切さを示す例として、覚えておきたいですね。

(出典※2:Nederlandse voedsel-en Warenautoriteit

日本における遺伝子診断の取り組み

もう一つ、遺伝性疾患の予防が期待できる手段として有効なのが遺伝子診断です。

遺伝性疾患を少なくするためには、可能な限り親犬・猫の遺伝子診断を実施して、疾患原因遺伝子を持っている犬猫を繁殖に使わないことがとても重要となります。

アメリカでは11もの遺伝子検査実施機関があり、遺伝子検査が可能な遺伝病は74品種38疾患にのぼると言われています。(※3)

(出典※3:獣医臨床遺伝研究会 フォーラム 『伴侶動物の遺伝性疾患』)

日本でも大学病院を中心に動物の遺伝性疾患に関する調査・研究は進んでいます。

遺伝子検査技術の向上により、無償で提供している病院や一部企業でも導入されるなど、遺伝子診断は実施しやすくなっています。一部大手ペットショップでは、販売前に遺伝性疾患の検査を行うことで、消費者が安心して購入できるようにしているようです。

しかし、遺伝子診断結果の取り扱いはブリーダーやペットショップに委ねられていること、全ての病気の発症がわかるわけではないこと、そして飼い主が遺伝子診断結果を過度に信用してしまい、飼育を忌避することがあるなど、遺伝子診断の取り扱いについては慎重になる必要があります。

犬猫の遺伝性疾患に、私たちができること

これから犬猫を家族としてお迎えしたい人へ

これから犬猫のお迎えを検討している人も増えているでしょう。

たしかに、動物たちは私たち人間に無償の愛情と癒し、安らぎをもたらしてくれる存在です。でも、今回ご紹介したような遺伝性疾患をはじめとして、さまざまな病気やケガのリスク、高齢になれば介護や看取りの問題など、覚悟と責任が求められる場面も当然あるのです。

高額な治療が長期にわたるケースも想定し、どれくらい医療費がかかるのか、保険は適用されるのか、などの基礎的な知識を身につけ、動物をお迎えする心構えをしておきましょう。

もしも“我が子”が、遺伝性疾患とわかったら?

お迎えした犬猫が、ある日突然治療法が確立していない難病と分かる日もあるかもしれません。命を迎える責任とは、いかなる状況になっても、最期まで責任を持つということ。病気や障害も受け止め、愛するためには、大きな覚悟が必要です。

遺伝性疾患をはじめとした犬猫の難病については知見や経験のある獣医師が限られていたり、「あらゆる治療法を尽くした時どこまで延命を続けるのか」という“命の終わり”を決める難しい線引きが飼い主の判断に委ねられているなど、飼い主だけの覚悟や努力だけで乗り越えるのは難しい側面もあります。

そうした時のために、茂木先生は「飼い主に寄り添いサポートできる獣医師、そして遺伝病カウンセラーのような存在がいれば助けになる」と語ります。

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遺伝性疾患で苦しむ犬猫を少しでも減らすためには、獣医師や研究者など専門家の弛まぬ努力だけではなく、繁殖や販売に関わる事業者、そして我々一般飼い主の知識レベル向上や意識の変化、「命に対する覚悟」を持つことも非常に重要です。

「犬猫の遺伝性疾患」第1回 現状と背景もあわせてお読みください。

ぜひこちらからアンケート回答にご協力をお願いいたします!

監修:茂木 朋貴 先生

東邦大学理学部生物分子科学科を早期卒業後、岩手大学農学部獣医学課程へ編入学。卒業後は東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程へ進学し、博士(獣医学)取得。2017年から国立研究開発法人理化学研究所統合医科学研究センターで人のゲノム解析の研究に取り組み、2018年より客員研究員となる。同時に、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターの特任研究員として、獣医療の現場へ復帰。2019年より特任助教、2022年から現在まで同大学農学共同研究員、米ボストン大学(Boston University Chobanian & Avedisian School of Medicine)にて前立腺癌の研究を行う。

出典一覧:

※1、3:獣医臨床遺伝研究会 フォーラム 『伴侶動物の遺伝性疾患

※2:Nederlandse voedsel-en Warenautoriteit

※掲載の文章・写真はアニマル・ドネーションが許可を得て掲載しております。無断転載はお控えください。

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