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「動物介在活動」の普及を通じ、犬・猫に多くの活躍の場を提供

活動レポート

「動物介在活動」第3回 児童精神科医からみた犬が子ども達に与える影響

2022.02.05

目次

日本介助犬協会でDI犬として認定を受けたラブラドールレトリバーのハチは、愛知県にある「楓の丘こどもと女性のクリニック」でハンドラーの看護師さんとともに、女性や子どもの心のサポートをしています。クリニックの院長であり児童精神科医の新井先生は、付添犬の立ち上げに尽力されたお一人です。また以前勤務先の病院で動物介在療法を実施された経験もあります。児童精神科医の立場から見た犬が子どもたちに与える影響についてお話しを伺いました。

新井先生とハチ

新井:「以前勤務していたあいち小児保健医療総合センターの児童精神科病棟に入院している子どもに動物介在療法を行ったことがあります。ハチくんのように病院に勤務する犬がいたわけではないのでボランティア団体(CANBE)さんに頼んで色々な種類や大きさの犬に訪問してもらいました。

虐待を受けていた子どもは人を信用できなかったり、人を極度に怖がったりしているためそもそも治療が始められないことがあります。

子どもたち1グループに対して30分の犬との触れ合いを持ってもらったのですが、人を怖がっていた子どもが犬に対しては寄り添って抱きしめたり、治療者に対して甘えたり、自分の気持ちを話してくれるようになりました。死にたいといっていた子どもが犬と触れ合って温かい気持ちになったと話すなどすぐに効果を実感しました。」

また、病院だけではなく裁判所でも、虐待を受けた子ども達が犬と触れ合うことによる効果を実感し、付添犬の導入に向けて動き出します。

新井:「裁判に関わる場面で、子どもから話を聞くのはとても困難です。例えば、父親のDVによる離婚で、父親はDVをやっていないと主張し、両親の意見が食い違う場合に調査官が子どもからも参考意見を聞くことがあります。実際に父親のDVを目撃したり、父親から虐待を受けていた子は、本当は父と会いたくないと思っていても、そのことを話したら仕返しされるのではないかと怯えて調査官に話すのを嫌がります。

そうなると事実関係が分からないため、よっぽどの事がなければ父親と会った方が子供のためだと面会が設定されます。そして面会が近づくたびに怯える親子を見て来ました。どうにかしたいと困ってる時にコートハウス・ファシリティドックの存在を知りました。

そこで病棟で動物介在療法をしてくれていたCANBEの代表で獣医師の吉田先生に相談して、調査官との面談の日に犬との触れ合いをしてもらうようお願いしました。

自分の話をするのを嫌がり、調査官との面接の前日から腹痛を訴えているた子どもがいました。とても辛そうだったので、その子には話せなくてもいいから犬と遊ぶだけでいいよと伝え、実際に30分犬を抱きしめたり一緒に遊んでもらったりしました。ほどなくして、調査官のいる部屋に自ら話をしに行ってその子が思っていることをすべて話すことができました。犬がその場にいなければ不可能であったと思います。」

 「その子は父と面会をすることは避けられましたが心の傷は深く、不登校になった時期がありました。でも治療の最中に、頭の中にその時の犬が現れ、「大丈夫だよ」とその子に語りかけてくれたことで、その子はまた勇気をもらうことができました。一度触れ合うことで心のケアが出来るだけではなく、子どもにとって犬はその後も何度も自分を助けてくれ勇気を与えてくれる存在なのです。」

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愛知県にある子どもと女性のための精神科「楓の丘こどもと女性のクリニック」ではラブラドールレトリバーのハチがハンドラーである看護師さんと共に患者さんの心のケアにあたっています。

新井:「診察に来られる患者さんは社会で家庭でも非常につらい立場に置かれています。病院で話をしてもつらい現状は直ぐには変わりませんが、診察の後にハチくんをそっと抱きしめてたくさん泣いてから帰る患者さんもいます。

家から出ること自体困難な患者さんも多いのですが、クリニックではハチくんを通じて他の患者さんとも話をすることができるので、月に一回の診察が唯一の人との交流だと楽しみにされている患者さんも多くいます。

ハチをなでる女の子

実際にハチが介入し子どもに変化が見られたケースの一部をご紹介

虐待を受けた子どもが犬と触れ合うことで非常によい影響があることは一目瞭然でも、それをエビデンスとしてまとめることは簡単ではありません。

子供自身に自分の感情を知覚して評価してもらうのが非常に難しいからです。大人から見て明らかな変化が見られたとしも、子ども本人は自覚をしていない場合もあります。新井先生から、クリニックで実際に子供たちにハチが介入した中から3例のケースを具体的にご紹介して頂きました。

ケース1:小学生女児

暴力被害を受け受診したが、初めて受診に来た時はとても緊張が強く、全身を硬直させ泣き出してしまいました。ハチが寄り添っても、はじめは触れることもできずうつむいたままで、30分ほどして徐々に体の力が抜けはじめると、初めは指一本から、徐々に撫でる範囲が広くなり、母から「ハチくんみたいな穏やかな先生だよ」と促されると、診察を受けることができました。その後の通院でもしばらく緊張が強い時期が続きましたが、ハチのおかげで通院を続けられ大変な治療を受けることもでき、笑顔で将来のことを話せるようになりました。

ケース2:小学生男児

嘔気・腹痛の不安から不登校になっていた。初診・2回目の診察時も不安や緊張が強く、大声で「気持ち悪い」と訴え、診察室にとどまることができない様子であったが、診察途中にハチと触れ合うと、「(気持ち悪いのが)治ったかも」と表情がよくなった。

3回目の診察はハチに会うために来たと手を振り笑顔で来院し、自ら診察後にハチと触れ合いたいと希望し、それ以降診察後にハチとのふれあいを繰り返した。

初診から3ヶ月経過したところでショートケア(不登校や対人緊張の強い患者さんが慣れるために通うプログラム)への参加を提案しました。ショートケアにもハチがいることを知り興味を示し、初回は「気持ち悪い」と訴えながらもハチを見るなり気持ちを切り替え、ハチを介して他児との交流も広がり、そこで友達ができたことが自信になり、しだいに登校できるようになりました。半年ほど経過したところで、「学校にもいけるし、体調も良くなった。ハチがいなくてももう大丈夫だと思うから、他に困っている人にハチの力を貸してあげてね」とハチとのふれあいを自分から卒業していきました。

ハチを抱きしめる女の子

ケース3:母と小学生

幼少期より虐待を受け、結婚後もDVを受け離婚した母。気分の落ち込みが著しく生活が安定しない中、小学生の子供も不登校に。通院を続けている中のある日、日常での人間関係もうまくいかず、辛かった記憶が繰り返し思い出されることで気持ちがさらに不安定になり、家に帰りたくないと診察が終わっても帰れなくなっていました。そのため看護師が同伴しハチと一緒に子供と散歩をしてもらうと、散歩で親子らしい自然な会話ができたことがよかったと落ち着きました。安心して医療者と話せるからと犬が好きではなかったにもかかわらず、カウンセリングにハチの同席を希望。虐待環境に育ったため育児のイメージがつきづらく、周りに相談することも上手にできなかったことを話してくれ、それからは、少しずつ自信を持って子ども関われるようになり、母親として周りから扱ってもらえることが、それまで負担だったが今は嬉しいと話してくれるようになった。

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秘めた能力を解放させよう

人を支える犬がいます。近年は、研究の成果、動物との触れ合いが、人の心を癒したり痛みを緩和する効果を持つことが分かってきました。人に寄り添って心を癒すことを仕事とする犬猫の活躍の場を広げていきます。犬に過度な負担をさせないのが原則だと考えています。

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