猫様はご主人様

To:むぎ

From:彩華マータイ

「彩華のアパート、ペット可でしょ?」 一人暮らしを始めて3年、友達が台風の日に猫を拾ったという。実家で4匹犬を飼っていた超犬派の私は、猫とはどんな生き物なのか、怖いもの見たさで飼うことにした。実家の犬はすべて保健所からの保護犬。それまで猫なんて触ったこともなく、可愛いとも思わなかったが、私が引き受けたら殺処分は逃れる。親無しで嵐の中、小さな体で耐えた子猫。まず病院に連れて行ったが小さすぎてオスかメスかも分からない。困ったぞ、名前はどうする。尻尾が短くギザギザ。病気なのかと思い調べた。ほう、カギしっぽというのか。へー、幸運を運んでくれるのか。茶色で麦の穂みたい。ムギなら男女どちらでも可だな、よし、むぎちゃん、よろしく!名付けに2週間以上掛かった。アラサー独身貴族だった私は、餌からおもちゃ、シャンプーまで全てオーガニックの最高級品を揃えた。同居猫には良い生活を提供したかった。出張の際は、実家に預けるため一緒に新幹線で。なにっ、お前も一丁前に乗車料金が要るのか。え~、私より両親が好きなの?実家では両親という下部からVIP対応を受け、どんどんふくよかに肥えていった。可愛かった麦の穂は、今ではトイレ掃除のブラシのよう。左右にブンブン振りながら、トットットットッ、、、と大きな足音を立てて我が物顔で家中を闊歩している。猫なのに足音だなんて、わざとなの?と聞いても当然無視、返事もせず我が道を行く。扉を自力で開けて次の部屋へ。「むぎちゃん上手ねぇー」と褒める母。もちろん扉は開けっ放しで突き進むが、誰も叱らない。私が閉めるが、誰も褒めてくれない。犬も不服そうに見ている。ソファに良いクッションを見つけた模様。猫用の温かいクッションは、昼寝中の父。7kgが腹に載って、寝ている父の眉間に皺が寄る。苦しいのだろうが、誰もむぎちゃんを退かさない。それどころかウトウト細くなる目に癒されている。 がんばれ父。猫に飼われるとはこういう事らしい。